NFTに関する国際課税についても、その全容はまだ明らかになっていません。むしろ世界的にその課税の整備がはじまったばかりの、スタート地点となっています。
国内においては、2022年3月30日に発表された「NFT ホワイトペーパー(案)」では、次のような問題と提言がされており、国境を跨ぐ取引における所得税及び消費税の課税関係は今後の課題である旨の指摘がされています。
国境を跨ぐNFT取引が行われた場合における課税関係について、以下の点等において必ずしも 明確ではない部分があるため、国境を跨ぐNFT取引促進の阻害要因となっている。
(問題の所在)
①.所得税及び法人税の課税関係海外の事業者が日本の居住者や内国法人との間でNFT取引を行った場合、日本において源泉徴収及び申告課税の対象になるのか。
②.消費税の課税関係海外の事業者が日本の居住者や内国法人との間でNFT取引を行った場合、国内取引として消費税の課税取引に該当するか。
(提言)
国境を跨ぐNFT取引が行われた場合における所得税及び消費税の課税関係を明確化すべきである。その上で、国内外の事業者の課税の公平性を担保するためにも、所得税及び消費税の課税対象となる場合には適切な執行がされるべきであり、そのために必要な体制の整備等の適切な措置を講ずべきである。また、国境を跨ぐNFT取引に対する課税において適切な執行を行うためには海外の当局と適切に連携していく必要があり、そのための国際的な協力の枠組みを構築、運用すべきである。
NFTホワイトペーパー案20220330.pdf (taira-m.jp) 2022/3/30
※今回のNFTにかかる国際課税についても問題の所在をもとに、筆者にて各単元につき検討を行いましたが、この考え方は現在発信されている情報やFAQをもとに、筆者の個人的な見解であり公式な見解ではありませんことにご留意ください。またご参考のためにNFTを含むメタバースの国際課税の動向を末尾にまとめております。
Ⅰ. 国内の消費税の課税について
はじめに、国内の消費税の取扱いですが、次のような消費税の4要件(国内取引)があります。
②.事業者が事業として行うものであること。
③.対価を得て行うものであること。
④.資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供であること。
該当するNFT取引についてこの4要件の全てがみたされた取引であり、課税事業者であれば基本的に消費税の課税対象者になります。
その上で、NFTの課税関係については、①.の国内取引に該当するかどうかがポイントになりますが、「国内」とは、原則的に、「役務提供が行われた場所」を基準に判断します。しかしながら例えば、openseaというマーケットプレイスで行われた取引については、取引相手の場所も分からないケースが多く、資産の譲渡の場所が特定できないという問題が起こります。特に海外のNFTコレクションを購入し、転売するような場合の論点になると思われます。
原則的に、日本の消費税法上で資産の譲渡の場所が明らかでない場合には、資産の譲渡を行う者の所在地で内外判定を行うこととしていますので、消費税が課税されるかどうかの判定については、各取引相手の所在地を明らかにすることがポイントになると考えられます。
そして、④の取引区分ですが、たとえば暗号資産の消費税については、「仮想通貨に関する税務上の取り扱いについて(FAQ)」において、暗号資産は支払手段及びこれに類するものの譲渡であり非課税取引であるとされています。
一方、NFTについてはどうでしょうか。まずは所有するNFTについて、次のようなフローチャートが一つの目安になります。たとえば、A.~D.に該当する場合は、それぞれの消費税の取り扱いや実例に従います。E.のNFTに該当する場合は、消費税法上の定めや実例がないため、個別検討が必要になります。
上記より “A.B.C.Dは、それぞれの消費税の取扱い実例に従う。Eは消費税法上の定めや実例がないので、個別検討をすることになる“ と考えられます。
Ⅱ. 国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について
越境取引消費税の対象になるのは<特定資産の譲渡等>ですが、これには大きく次の2つのくくりがあります。
A. 電気通信利用役務の提供に係る消費税の課税関係
B. 国外事業者が行う芸能・スポーツ等に係る消費税の課税関係
内容の概略としましては、電気通信利用役務の提供が事業者向けであれば、納税義務者は国内事業者がリバースチャージ方式となり、個人消費者向けであれば納税義務者は国外事業者になります。特定役務の提供であれば国内事業者がリバースチャージ方式で申告納税をすることになります。
≪特定資産の譲渡等≫の該当性の検討
次に、それでは、越境取引にかかるNFT取引の課税関係についてそれぞれが特定資産の譲渡等のA.およびB.に該当するかどうかを検討する必要があります。
A). 電気通信利用役務の提供
NFT取引が電気通信利用役務の提供に該当するのかどうかですがNFTはインターネットを通じて取引を行うため、電気通信利用役務の提供に該当するのではないかという論点があります。電気・通信・利用役務の提供とは以下のように定義されています。
電気通信利用役務の提供および資産の譲渡等のうち、
*電気通信回線を介して行われる著作物の提供 (当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む。)
*その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供であって、
*他の資産の譲渡等の結果の通知その他の他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供以外のものをいう。
国税庁では、この電気通信利用役務の提供および資産の譲渡等について、次のような例示を挙げています。(なお、紙面の都合でNFTに関係しないと考えられるものは筆者が割愛しております)
*インターネットを介した、電子書籍、電子新聞、音楽、映像、ソフトウェアを配信
*インターネット上のショッピングサイトオークションサイトを利用させる子サービス(商品の掲載料金等)
*インターネット上でゲームソフト等を販売する場所を利用させるサービス
*インターネットを介して行う宿泊予約、飲食店予約サイト(宿泊施設、飲食店等を経営する事業者から掲載料等を徴収するもの)
*インターネットを介して行う英会話教室
など。
*ソフトウェアの制作等
著作物の制作を国外事業者に依頼し、その成果物の授業や制作過程の指示をインターネット等を介して行う場合がありますが、その取引も著作物の制作と言う他の資産の譲渡等に付随してインターネット等が利用されているものですので、電気通信利用役務の提供に該当しません。
*著作権の譲渡・貸付
著作物に係る著作権の所有者が、著作物の複製、上映、放送等を行う事業者に対して、その著作物の著作権等の譲渡・貸付を行う場合に、その著作物の受渡しがインターネット等を介して行われたとしても、単にインターネット等が利用されているのでだけなので電気通信利用役務の提供に該当しません。
など。
上記は例示であるため、手掛かりでしかありません。
「事業者向け電気通信利用役務の提供」に該当するかどうかは、役務の性質や取引条件等によって判断します。いわゆる事業者同士が取引したら自動的に該当するものではなく、個別契約等によって各事業者等が利用できることが明らかでなければ該当することが証明できないことになります。
一般に提供されている取引条件等とは別に、その事業所間で固有の契約を締結しているようなものなど、その取引条件等が事業者間取引であることが明らかな場合には、「事業者向け電気通信利用役務の提供」に該当します。
従って、国外事業者が国内事業者に電気通信事業役務の提供することのみが、要件ではなく、あくまで性質や取引条件等によって通常事業者に限られる場合には、この「事業者向け電気通信利用役務の提供」に該当することになると言えます。
この検討の結果、必要に応じて課税方法はリバースチャージ方式または国外事業者納税方式が採用されることになります。
B). 特定役務の提供
次に特定資産の譲渡等にはもうひとつ「特定役務の提供」という区分があり、国外事業者が国内で行う芸能・スポーツ等の役務の提供についてH27年に消費税の課税方式が見直され、当該役務の提供を受けた事業者に申告納税義務を課す、いわゆるリバースチャージ方式が導入されました。特定役務の提供の内容は下記の通りです。
ここでNFT取引として検討が必要になるのはOECDモデル租税条約17条との関連になります。
特定役務の提供に該当する取引は、具体的に以下のようなものが該当します。
国外事業者が、対価を得て他の事業者に対して行う
① 芸能人としての映画の撮影、テレビへの出演
② 俳優、音楽家としての演劇、演奏
③ スポーツ競技の大会等への出場
*なお、国外事業者が個人事業者で、当該個人事業者自身が①から③の役務の提供を行う場合も含まれます。
*また、国外事業者であるスポーツ選手が、映画やCM等の撮影を国内で行って、 その演技、出演料等を受領する場合は①に含まれます。
*国外事業者がアマチュア、ノンプロ等と称される者であっても、スポーツ競技等の役務の提供を行うことにより報酬・賞金等を受領する場合は③に含まれます。
※ ただし、①から③の役務の提供であっても、国外事業者が不特定かつ多数の者に対して行うものは、「特定役務の提供」に該当しません。
出所:「国外事業者が行う芸能・スポーツ等に係る消費税の課税方式の見直しについて」H27年5月国税庁
さて、国際課税では、芸能人等の肖像権について、OECDモデル租税条約17条(芸能人および運動家)において、名前の他にその芸能人の写真やサインを利用する権利であるとしているため、その肖像権を用いたNFTについてもこの課税が該当することが考えられます。この場合、その芸能人の所属するプロダクション、国、講演ステージや、その放送局など所在地などにより、その帰属がどこになるかの問題が生じることが考えられます。たとえば、
*NFT化した肖像権の芸能人のツアーの居住地とするのかユーザーの居住地とするのか
*メタバース上の取引であるためユーザーの国の不明確性によりどの国で課税できるか不明瞭 等。
従いまして、芸能人やスポーツ選手の何かしらの肖像権を使用したNFT取引については、越境取引に関する消費税に関わる可能性を含んでいます。
以上よりNFTの越境取引に係る消費税の判断は未開拓、未整備エリアと言えそうであり、これからの早期な整備を待ちたいところです。
(※令和5年税制改正大綱については顛末に記載しました)
Ⅲ. NFTの国際取引における源泉所得課税
一般的に、国内では次の4つの要件に該当する取引が行われると、国際取引においては源泉徴収義務が発生することになります。
② 国内において支払う
③ 源泉徴収対象所得を支払う
④ 支払をする者に該当する
このうち一つでも該当しない場合は、源泉徴収義務は発生しません。ただし、国外で支払われた場合でも、その支払者が日本国内に事務所を有する場合には、国内で支払ったとみなされ源泉徴収義務が発生することになります。(所得法212②)
源泉徴収所得の概要は下記のように整理できます。
所得税法17種類のうち、13種類が源泉徴収の対象となっており、対象となっていない4つは(特定所得)であり、源泉徴収を行いたくても実務上不可能な所得とされています。たとえば海外法人が国内の一般消費者に販売するケースなどでは、各個人から源泉徴収をして各人が納税をすることは困難だからと言えます。
■従って、NFT取引からの所得については、源泉徴収対象の所得の種類の該当性を個別に判断し徴収の有無を検討する必要があろうかと考えられます。
たとえば、NFTはデジタルアートに限らず、実物にも利用可能になっているため、NFT取引ではNFTとなったデジタルアートが譲渡された後、その購入者から、さらに転売され転々と流通することもできます。
またコンテンツ制作者の所有権はそのままにして、継続的に販売額の一部の収益を得ることができる仕組が構築できます。
そしてNFTに類似するものとして、著作権、商標権等の知的財産や金融商品も考えられ、著作権についてはNFTがソフトウエア著作権に該当して保護される場合もあり、肖像についてはデジタル商品として登録をすることも可能と考えられます。
1) 次の場合は、貸付金利子:10号所得に該当するかどうか。
仮に貸付金利子としてNFTを収受していた場合、その貸付金元本が国内で使用(使用地主義)されているとすると源泉所得対象所得に解される場合もあろうかと考えられます。
このことより、NFTを販売する際に法的関係が不明確である場合には、資産の譲渡所得の起因となる資産が何であるかを特定することが重要と言えます。コンテンツの制作者が特定の無形資産に関する権利を譲渡したのであるか、権利は保有しながら使用料を得ているのか、または対価が一時に支払われる譲渡の場合に、NFTと紐づけられたデジタルコンテンツ自体が譲渡との性質を有する場合はデジタルコンテンツの利用権の譲渡と考えることもできます。これらのNFTが何に該当するのかなど、NFTのもとになる資産によりその取引の性質も変化します。
たとえば、NFT作品が販売された場合に、そのクリエイター(制作者)に一定の手数料が支払われる仕組みにおいて、その金額が著作権等の使用料と判断された場合には、非居住者に支払われる手数料は支払者に源泉徴収義務が生じる可能性があるため、“著作権の使用料またはその譲渡による対価”の解釈が問題になると言えます。
2) 次の場合、使用料等:11号所得(所法161①十一)に該当するかどうか。
このような事例で検討することは多く、著作権の使用料または譲渡であるのか、著作権利用の譲渡なのか、さらに居住者か非居住者かどうか、国内払いかどうかを判断しつつ適正な源泉徴収義務をすることになります。仮に日本の居住者による非居住者や外国法人に対する支払いで国内で使用した(使用地主義)であれば、国内源泉所得として支払者に源泉徴収義務生じる可能性があります。
3) 次の場合、人的役務提供事業対価(六号所得)に該当するかどうか。
他にも、芸能人等の所得の課税の課題があります。国際課税で芸能人等の肖像権については、OECDモデル租税条約17条(芸能人および運動家)において、名前の他にその芸能人の写真やサインを利用する権利であるとしているため、その肖像権を用いたNFTも該当することが考えられるかもしれません。この場合、その芸能人の所属するプロダクション、国、講演ステージや、その放送局など所在地などにより、その所得の帰属がどこになるかの問題が生じることが考えられます。
たとえば、芸能人の写真や映像をNFTをした場合の肖像権の所在地、芸能人のツアーの居住地かユーザーの居住地であるのか、メタバース活動であるため実際の取引ユーザーの国の不明確性などにより、どの国で源泉徴収課税されるかを検討する必要があると言えます。
以上のことより、NFTの多様性から、国際所得税の源泉徴収についてはNFTの制作販売、その収入にかかる各税の取扱いにより判断をしていくことになろうと考えられます。
■ただし、このようなNFTにかかる源泉徴収については、メタバース内の個人であるため確認することが困難であったり、源泉徴収の対象となる支払者(ユーザー)が多数であった場合、そのユーザーから源泉徴収をすることが現実的かどうか、などの実務的な課題を含んでいます。
先行して、2021年10月に国際合意された国際課税制度(Inclusive Framework on Base Erosion and Profit Shifting)の第1の柱(市場国への税源配分)の第1の柱では、デジタル企業を含むグローバル収益が200億ユーロ超かつ利益率10%超の多国籍企業について、物理的な存在の有無にかかわらず事業活動を行って利益を稼得している市場国に対して一定の課税権を再配分する内容となっており、年間1000億米ドル以上の利益に対する課税権が市場国に再配分されると想定されています。
現在の案では、一部の巨大多国籍企業グループに限られてはいますが、今後はその対象外であるメタバースの運営者や参加者に対する所得税課税が拡大することを考えると課税権の方法も検討されることになるのではないでしょうか。
Ⅳ. 暗号資産の国際情報交換の実現化
OECDは2022年3月にCRSと同様に暗号資産についても実施する枠組みを示しています。
NFTの一部に暗号資産が存在する場合には十分に対象となると考えられます。具体的には暗号資産に係る情報交換制度の枠組み「CARF」(Crypto-Asset Reporting Framework ) および共通報告基準「CRS」(Common Reporting Standard)について公表し、これについては、その後改正案として10月に新ルールの提案が行われています。早ければ2024年から実施される見通しです。
■ 1. CARFの概要
国際的な新たな投資や決済手段として暗号資産を用いた取引や、暗号資産の保管や移転サービスを提供する暗号資産取引所やウォレットプロバイダーなど、これまでの金融機関が提供するサービスと類似したビジネスが開始されています。
しかし、このような暗号資産は従来の金融機関に適用される規制の対象外となっているため、OECDは、暗号資産やその保有者の透明性が確保されておらず租税回避に利用されるリスクについて懸念を表明しました。
CRSにおける金融機関にその顧客の金融資産に関する情報を各国の税務当局に提供することの義務付けとは別に、CARFにおいては、現行のCRSと同様の情報交換を暗号資産についても確実に実施されるようその枠組みが示されました。
(Source: Crypto-Asset Reporting Framework and Amendments to the Common Reporting Standard)
改正案についてOECDは、3月に公表した公開諮問文書(Public Consultation Document)に対する意見募集を経て、今年2022・10月10日に暗号資産に関して、自動的情報交換に係る暗号資産報告枠組み(Crypto-Asset Reporting Framework、以下「CARF」)および改正共通報告基準(Amendments to the Common Reporting Standard、以下「改正CRS」)として公表しています。
その際、OECD事務総長は、いままでの「共通報告基準」の実績は、国際的な脱税との闘いにおいて非常に成功しており2021年には、100を超える管轄区域が、総資産11兆ユーロをカバーする1億1,100万の金融口座に関する情報を交換したことを述べています。
このように、CARFは、CRSと同様の標準化された方法で、毎年納税者の居住管轄区域とそのような情報を自動的に交換することにより、暗号資産取引に関する新しいグローバルな税の透明性フレームワークを今後も確保する方針です。
Source: AEOI/AUTOMATIC EXCHANGE OF INFORMATION
Status of commitments for the automatic exchange of financial account information (AEOI) (oecd.org)
CARFおよび改正CRSは、本邦国内法制化の基礎となるルールおよびコメンタリーから構成されていますが、報告スキームや導入タイムライン等の実施に必要な事項は、今後公表される予定とされており、国内法制化と併せて検討することになります。
なお、公開諮問文書からのCARFおよび改正CRSに関する主な変更点を含めた点と、暗号資産に関するFATCAを含む米国の動向は次のようになっています。
■ 2. CARFに関する主な内容等(改正案含む)
1).対象となる暗号資産とNFT
暗号資産の報告対象となる特定暗号資産(Relevant Crypto-Asset)は、次のものを除いたものとされます。
②特定電子マネー商品(Specified Electronic Money Product)
③報告暗号資産サービスプロバイダー(Reporting Crypto-Asset Service Provider)が決済または投資目的として使用できないと判断した暗号資産
したがって、暗号資産に該当するNFT等については、その決済・投資目的性の有無により、報告対象となるか否かが判断されるものと考えられます。
2).対象となる事業者
報告暗号資産サービスプロバイダーは、原則として、顧客に代わって暗号資産交換取引を事業として行う仲介事業者が該当します。たとえば、暗号資産取引所、ブローカー・ディーラー、暗号資産ATMの運営業者などが含まれ、CARFでは、報告暗号資産サービスプロバイダー(Reporting Crypto-Asset Service Provider)として取扱われることとされています。
報告暗号資産サービスプロバイダーに該当する事業者は、顧客の本人確認書類を取得の上、所定の確認手続を行い、暗号資産の価値を把握するなど各種対応を行うことが求められ、報告暗号資産サービスプロバイダーは、設立場所・事業内容・税務申告・経営管理・取引などを考慮の上、その適正性の判定が行われることと考えられます。
なお、報告暗号資産サービスプロバイダーが複数の国・地域において報告ネクサスを有する場合については、報告の重複を避けるためのルールが手当てされています。なお、報告暗号資産サービスプロバイダーに該当する事業者は、以下、「3. 報告要件」に従った報告および「4. デューデリジェンス手続」を実施することが求められます。
3). 報告要件
報告暗号資産サービスプロバイダーは、改正により4つから以下の3種類の暗号資産取引に関する報告にしぼられました。
② 特定暗号資産同士の交換
③ 特定暗号資産の移転(報告可能な決済取引を含む)
暗号資産取引は暗号資産の種別ごとに報告を行い、取引内容によって追加情報が求められます。
暗号資産は、取引の種類ごとに異なり、交換される法定通貨の金額、暗号資産の取得や処分の際の公正市場価値などにより評価額が決定されます。報告対象となる顧客情報は、氏名・住所・税法上の居住地国・納税者番号・生年月日・出生地・事業体の実質的支配者なども含まれています。
OECDは、購入した商品やサービスの対価として暗号資産で支払う場合、当該小売決済取引の透明性を確保するために、報告暗号資産サービスプロバイダーに対して、小売業者の顧客をその顧客として扱い、個人が自ら管理するコールドウォレットなどを使用して外部ウォレットアドレスへ特定暗号資産を移転した場合には、移転時の公正市場価値総額および数量の報告を求めています。
Source;OECD SECRETARY-GENERAL TAX REPORT TO G20 FINANCE MINISTERS AND CENTRAL BANK GOVERNORS Indonesia, October 2022
Ⅴ.メタバース警察による“タックスヘイブン”への規制
ITの調査企業であるガートナー(Gartner,Inc.)は、2026年までに、世界で4人に1人が仕事やショッピング、あるいは他人との交流、自己啓発等のために1日1時間以上メタバースに費やし、企業の30パーセントがメタバースに対応した製品・サービスを提供するようになり、メタバースが暗号資産やNFT等を軸とした仮想経済圏をつくり上げると予想しています。
実際に、多くの人々が「NFTを活用することでデジタルデータの取引がしやすくなる」と感じています。これまでデジタルデータは誰に所有権があるのかを示すのが難しく、改ざんやコピーを簡単に行うことができていましたが、NFTを利用することで、あたかも現実世界に存在する芸術作品や土地のように、投資や投機の対象としてデジタルデータを扱うことが可能になりました。
たとえばこの空間内の土地や建物、アバターの衣装などといったデジタルデータまでも、既に金銭を伴って取引されるようになっています。
NFTの登場により、今後より多くのデジタルデータが大きな金額で取引されるようになると期待されていて、この「より多くのデータ」を提供するのが、メタバースによって実現される3DCG空間になっています。
しかしながら、ブロックチェーンを使って実現される暗号資産では、取引に関与する当事者が追跡しにくいという特徴があり、そうした取引により、多額の投資マネーが流れ込み、まさにメタバースはバブルに近い状態として新たなマネーロンダリングの場として利用されかねない、という懸念と伴に中国、欧州、米国をはじめ各国の規制当局が警戒感を高めています。
2021年12月には、中国人民銀行でマネーロンダリング対策を担当する責任者が、「メタバースやNFTを放置すればマネーロンダリングのリスクが高まる」という警告を発したことが報じられ、この分野での監視や規制を強化することを政府に提言しました。
2022年2月には、米国の財務省もNFTを通じたマネーロンダリングの恐れに関する報告書を発表しています。
こうした状況に対して、メタバースという仮想空間に対して、既存の警察組織が関与を深めようという動きが始まっており、それらは具体的に次のような組織の流れを生んでいます。
その組織のひとつにインターポール(INTERPOL)があり、(正式名称は国際刑事警察機構(International Criminal Police Organization);略ICPO)
実際には各国の警察組織の間で連携を行ったり、彼らの捜査を支援したりするのが主な役割となっています。
また、今年2022年10月18日からインドのニューデリーで開催された第90回総会において、世界初となる「警察向けメタバース」が発表されました。これは前述インターポールの通常業務と同様、世界各国の法執行機関の連携を図ることが目的で、ユーザーはフランスのリヨンにあるインターポール事務局の本部を模した仮想空間にアクセスしながら、アバターを通じてインターポール職員や他のユーザーと交流できるようになっています。
ほかにも、UAE(アラブ首長国連邦)を構成する首長国のひとつに、アジュマーン警察があり、実際のメタバース内で活動を始めた警察組織も登場しています。このアジュマーン警察は今年10月16日に、「メタバース技術を通じて顧客にサービスを提供する最初の警察機関」となったとツイートで宣言しています。
本投稿では、いま世界中で大きな関心が寄せられているNFTを含めた「メタバース」の世界を4回にわたって筆者の検討を加えながら記述させて頂きました。
実際のところ、メタバースへの新鮮な期待の裏側には、デジタル空間における新たな無法地帯が広がっており、驚くような混乱や問題を提起しながら、今後も良くも悪くも私たちに新たな経済・法務・会計・税務の世界をもたらすことになるのではないでしょうか。
令和5年度税制改正大綱にて、NFT等を含むメタバース取引に関連する改正等がUPされました。
*越境取引にかかる消費税について
国境を越えた役務の提供にかかるプラットフォーム消費税課税については、諸外国の制度面やプラットフォーム事業者の役割を踏まえて、国内外の競争条件の公平性を考慮しながら、適正な課税を確保する方策を今後も検討していく考え方が表明されました。
*暗号資産にかかる法人税等の取扱いについて
11月18日㈮のマニタックスにて記載しておりました法人税の期末評価の課題が一部早速見直されました。
法人が事業年度末において有する暗号資産のうち、時価評価により評価損益を計上するものの範囲から、自己発行暗号資産で継続保有しているものや、譲渡制限がされている等一定の暗号資産は除外されることになりました。その他。
*関税
メタバース取引と直接関連性は少ないですが、“現物”として入荷されるなど、輸入貨物がECプラットフォームを利用して販売された貨物の場合、<輸入申告項目>に国内配送先や輸入者の住所と氏名(そのプラットフォームの名称)を追加記載することになりました。
(令和5年度税制改正大綱:2022.12.16)